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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19821号 判決 1994年6月21日

主文

一  被告らは、各自、原告三藤隆秀に対し金六四八万九六六八円、同三藤弘、同三藤温美、同三藤義隆及び同三藤末義に対しそれぞれ金五〇四万〇一二六円並びに同三藤隆秀の内金六〇三万九六六八円、同三藤弘、同三藤温美、同三藤義隆及び同三藤末義の各内金四五九万〇一二六円のそれぞれに対する平成四年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  原告の請求

一  被告らは、各自、原告三藤隆秀に対し金九六八万四〇九八円、同三藤義隆に対し金七八五万四五五六円、同三藤弘、同三藤温美及び同三藤末義に対しそれぞれ金七八三万四五五六円並びに同三藤隆秀の内金九〇八万四〇九八円、同三藤義隆の内金七九七万九五五六円、同三藤弘、同三藤温美及び同三藤末義の各内金七二三万四五五六円のそれぞれに対する平成四年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、道路の対向車線側にあるレストランに入るため右折した乗用車が、対向車線走行中の乗用車と衝突し、右折車に同乗していた女性が死亡したことから、その相続人らが、各乗用車の自賠責保険兼任意保険の保険会社に対し、右死亡による人損を直接請求した事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成四年六月二三日午後八時二五分ころ

事故の場所 茨城県西茨城郡岩瀬町西桜川二丁目三八〇番地先の路上

加害車両 原告三藤義隆(以下「原告義隆」という。)所有の普通乗用自動車(名古屋七一す九九八九。貢茂運転。以下「貢車」という。)及び有限会社大山石材工業所有の普通乗用自動車(水戸三三さ八一〇四。大山哲也運転。以下「大山車」という。)

被害者 三藤ミサオ(以下「ミサオ」という。)。貢車に同乗。

事故の態様 本件事故現場で、下館方面から水戸方面に向けて進行していた貢車が対向車線側にあるレストランに入るため右折したところ、水戸方面から下館方面に時速一〇〇キロメートルを超える速度で直進してきた大山車と衝突した。

事故の結果 ミサオは、急性硬膜下血腫など多発性脳外傷、腎挫傷の障害を負い、これにより平成四年六月二四日午後一時五八分死亡した。

2  ミサオの相続人

原告らは、ミサオの子であつて、同人の相続人である。

3  保険関係

本件事故当時、被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)は、原告義隆との間に貢車につき自賠責保険及び自家用自動車保険の各保険契約を締結していた保険者であり、また、被告大東京火災海上保険株式会社は、有限会社大山石材工業及び大山文夫との間に大山車につき自賠責保険及び自家用自動車保険の各保険契約を締結していた保険者である。

原告らは、平成四年一〇月一九日、原告義隆が保険契約をしていた被告安田火災の自家用自動車総合保険の搭乗者傷害保険(以下「搭乗者保険」という。)から、本件事故によるミサオの搭乗者保険金(死亡)として一〇〇〇万円の支払いを受けた。

三  本件の争点

1  被告らに対する請求の根拠

(一) 原告ら

本件事故は、貢茂及び大山哲也の過失によつて生じたものであるところ、原告義隆は貢車を所有し、貢茂は本件事故当時同原告から貢車を借用して運転していたから、同原告及び貢茂はいずれも貢車の保有者であり、また、有限会社大山石材工業は大山車の保有者である。そして、前示の保険関係(自家用自動車保険については、両車両とも対人保険金無制限の自家用自動車総合保険(SAP)により付保されており、原告らは自家用自動車総合保険普通保険約款に基づく直接請求をするための意思表示をした。)が存在するから、被告らに対し、本件事故に基づく損害賠償の直接請求をなし得る。

被告安田火災の後記主張は、原告義隆の、保有者としての同原告に対する請求は混同により消滅することがあるとしても、同原告の保有者貢茂に対する自賠法三条に基づく請求権までは混同により消滅しないから理由がない。

(二) 被告ら

原告らの右主張を争う。

原告義隆の被告安田火災に対する請求は、同原告が貢車の保有者であつて、同原告も含むミサオの相続人に対し損害賠償責任を負うことから、債権と債務が同一人に帰し、混同により消滅した。

2  原告らの損害額

(一) 原告ら

ミサオの死亡によつて発生した損害は次のとおりである。

(1) ミサオに生じた損害(相続分)

<1> 逸失利益 一二一七万二七八〇円

年収を平成三年度賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均賃金二九六万〇三〇〇円、可動可能年数七年(本件事故当時ミサオは七三歳であり、平成三年簡易生命表の余命年数の二分の一とした。)、生活費控除率三〇パーセントとして計算した。

<2> 死亡による慰謝料 二四〇〇万円

右合計三六一七万二七八〇円を原告ら五名が均分相続したから、原告一名当たり、七二三万四五五六円となる。

(2) 原告三藤隆秀に生じた損害

原告三藤隆秀は、ミサオの治療費三三万一四八〇円、ミサオの入院雑費一万八〇六二円、ミサオの葬儀費一五〇万円の合計一八四万九五四二円を負担した。

(3) 原告義隆に生じた損害

原告義隆は、交通費二万円を負担した。

(4) 弁護士費用 三〇〇万円

原告各人につき、それぞれ六〇万円宛て。なお、原告らは、弁護士費用については遅延損害金の支払いを求めていない。

(二) 被告ら

原告らの右主張を争う。

3  損害の填補

(一) 被告ら

前記の被告安田火災の搭乗者保険金一〇〇〇万円は、実質的に損害の填補となるから、自賠責保険金等からこれを控除すべきである。

(二) 原告ら

搭乗者保険の約款上、商法六六二条所定の保険者代位の規定が排除されていることから明らかなとおり、搭乗者保険金の支払い・受領は、損害の填補とならない。

第三  争点に対する判断

一  被告らに対する請求の根拠について

1  甲二の1、三、乙一の1ないし24、前示争いのない事実によれば、本件事故のあつた道路は、速度規制のない一般道であること、平成四年六月二三日午後八時二五分ころ、貢茂は、貢車を運転し、右道路を下館方面から水戸方面に向けて進行し、本件事故現場で対向車線側にあるレストラン「飛騨」に入るため右折したところ、折から水戸方面から下館方面に時速一〇〇キロメートルを超える速度で直進してきた大山哲夫運転の大山車と衝突したことが認められ、右認定事実によれば、貢茂は、対向車たる大山車の動静を注視し、充分に安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り、また、大山哲夫も、法定速度を四〇キロメートルを超える速度で走行したことから貢車の発見が遅れたということができ、両運転手の過失により本件事故が発生したということができる。

2  甲四、乙一の2、前示争いのない事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告義隆は貢車を所有し、また、有限会社大山石材工業は大山車を所有し、それぞれ各車を自己のために運行の用に供していたこと、貢茂は、後記認定の同原告が主宰する劇団の団員であつたことから、本件事故当時、同原告から貢車を借り受け、ミサオを同乗させてこれを運転していたこと、本件事故当時、被告安田火災は、原告義隆との間に貢車につき自賠責保険(証明書番号F-九九五七九六五-二)及び自家用自動車総合保険(SAP。証券番号一五五三四四一五四二。対人保険金無制限。自家用自動車保険は、その一部)の各保険契約を締結していた保険者であり、また、被告大東京火災海上保険株式会社は、大山車につき有限会社大山石材工業との間に自賠責保険(証明書番号七七七-〇六二二三-〇-二〇)及び大山文夫との間に自家用自動車総合保険(SAP。証券番号七三三四-二九一三〇。対人保険金無制限。自家用自動車保険は、その一部)の各保険契約を締結していた保険者であること。右各自家用自動車総合保険に適用される普通保険約款には、損害賠償請求権者は、対人事故の損害賠償額が自賠責保険により支払われる金額を超過する場合に限り、保険会社が被保険者に対して填補責任を負う限度で、直接請求することができることが定められていること(同約款第一章第一条、第六条)、原告らは、遅くとも平成五年八月二四日の本件第七回口頭弁論期日において、被告らに対し右約款に基づく直接請求をする旨の意思表示をしたことが認められる。

3  右各事実及び原告らがミサオを相続した事実によれば、原告らは、被告ら各自に対し、まず、自賠法一六条に基づき、本件事故に基づく損害賠償の請求をすることができ、なお自賠責保険金でその損害を填補することができないときは自家用自動車保険からその損害賠償の請求をすることができることとなる。

ところで、被告安田火災は、原告義隆については、同原告が貢車の保有者であることから自賠法三条により本件交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負うため、同原告の損害賠償請求権は混同により消滅し、同被告に対する自賠法一六条に基づく請求及び自家用自動車保険の直接請求は認められないと主張する。

しかしながら、原告らは、被告安田火災に対しては、原告義隆が貢車の保有者であることを理由とするのみならず、貢茂も貢車の保有者であつて同人が民法七〇九条の責任及び自賠法三条の責任を負うこと並びに自家用自動車保険の被保険者であることを理由として、各保険金の直接請求をしているものであるところ、貢茂は、貢車をその所有者である原告義隆から貢車を借り受けてこれを運転したのであつて、自賠法二条二項にいう「自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」ということができ、保有者に当たることは明らかである。また、原告義隆も貢車の保有者であるが、自賠法三条の他人性は直接の被害者であるミサオを基準として判断すべきであるから、ミサオを相続した同原告は、ミサオの死亡を契機として同原告に生じた損害も含めて、貢茂に自賠法三条に基づく損害賠償請求をすることができるというべきである。そして、ミサオが本件交通事故により被つた損害についての、貢車の保有者としての同原告に対する損害賠償請求権は、同原告がミサオを相続することによつてその債権及び債務が同一人に帰することとなり、同法一六条に基づく被害者の保険会社に対する損害賠償の支払請求権は消滅することとなるから(最高裁判所平成元年四月二〇日第一小法廷判決・民集四三巻四号二三四頁参照)、同被告に対する自賠法一六条に基づく請求及び自家用自動車保険の直接請求は認められないが、貢茂に対する自賠法三条に基づく損害賠償請求権は、同原告が貢車の保有者であることを理由とする損害賠償請求権とは別個の債権であつて、両者は不真正連帯の関係にあり、後者の混同による消滅は債権を満足させる事由でないことから、貢茂の保有者としての債務に影響を及ぼさず(最高裁判所昭和四八年一月三〇日第一小法廷判決・判例時報六九五号六四頁参照)、従つて、同原告の同被告に対する貢茂が保有者であることを理由とする自賠法一六条に基づく自賠責保険金の直接請求及び前示約款に基づく自家用自動車保険の直接請求については、他の原告らと同様にすることができるものというべきである。なお、同原告の大山車の保有者に対する請求権も、右に述べたことがそのまま当てはまり、被告大東京火災海上保険株式会社に対する自賠法一六条に基づく自賠責保険金の直接請求及び前示約款に基づく自家用自動車保険の直接請求についても、他の原告らと同様にすることができる。

二  原告らの損害額

1  ミサオに生じた損害(相続分)

(1) 逸失利益 五九五万〇六三〇円

甲一、九、原告三藤隆秀本人によれば、ミサオは、大正七年一〇月二八日に生まれ、尋常小学校を卒業後、一五歳ころから旅芸人の一座に入り、旅役者として収入を得てきたこと、昭和五〇年ころからは原告三藤義隆の創立した旅劇団の纏役的な存在となり、本件事故当時も現役として舞台に出ていたこと、ミサオが地方巡業の連続であることから、同原告以外の原告とは生活を独立していること、劇団の収入は公演料とお花代であり、舞台衣装等の経費を差し引くと純益に乏しかつたこと、劇団の団員は毎月一五万円ないし二〇万円を得ていたこと、ミサオは確定申告をしていなかつたことが認められる。なお、原告三藤隆秀は、ミサオが毎月二〇万円程度の収入を得ていたと供述し、甲一もこれに沿うが、これを裏付ける客観的な証拠はない。

右によれば、ミサオは、本件事故当時七三歳と高齢であつたが現役の旅芸人として就労しており、平均余命の二分の一である七年(平成三年簡易生命表によれば、七三歳女子の平均余命年数は一三・六七年である。)は、就労が可能であつたと推認される。もつとも、死亡当時の同人の年収を客観的に裏付ける証拠がないことから、逸失利益の算定の基礎となる収入を平成三年度賃金センサス産業計、企業規模計、小学・新中卒、女子労働者の六五歳以上の平均賃金年二〇五万六八〇〇円によることとし、ミサオの年齢、職業を考慮し、生活費控除率は五〇パーセントとし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、逸失利益を計算することとする。

計算205万6800円×0・5×5・7863=595万0630円

(2) 死亡による慰謝料 一七〇〇万円

ミサオは、高齢とはいうものの現役の旅役者としての職業を有していたところ、本件事故後、意識を回復することなく死亡したこと(甲一により認める。)、原告義隆以外の子らとは独立して生活していたこと、その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、死亡による慰謝料としては、一七〇〇万円が相当である。なお、原告らは被告安田火災から搭乗者保険金一〇〇〇万円を受領しているが、この点は、後記説示のとおり慰謝料算定に当たり特段の事情として斟酌しない。

右合計二二九五万〇六三〇円を原告ら五名が均分相続したから、原告一名当たりの相続分は、四五九万〇一二六円となる。

2  原告三藤隆秀に生じた損害

甲五の1ないし6、六の1ないし5、七の1ないし17(その枝番を含む。)、原告三藤隆秀本人によれば、同原告は、<1>ミサオの治療費(文書費を含む。)として三三万一四八〇円を茨城県西総合病院に支払つたこと、<2>ミサオの入院に要する衣類や雑貨等のため一万八〇六二円を費やしたこと、<3>ミサオの葬儀に当たり、遺体の運搬に七万二八五〇円、仏壇・仏具代に一一万四五〇〇円、葬儀代に五六万六五〇〇円、斉場に二万〇四四九円など、少なくとも一一五万七八九二円(領収書のある分)を費やし、その他、僧侶に対するお布施等を支出したこと、右支出の中には、原告らの衣装代等、本件事故と相当因果関係のある支出といえない分も含まれていることが認められる。

以上によれば、本件事故と相当因果関係のある支出としては、ミサオの治療費(文書費を含む。)及び入院雑費の全額及び葬儀費用のうち一一〇万円と認めるのが相当であり、その合計金額は、一四四万九五四二円となる。

3  原告義隆に生じた損害

原告義隆は、交通費二万円を負担したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。甲八は、ガソリン代の領収書であるが、いずれの機会に右ガソリン代を要したか不明である。

三  損害の填補

原告らが被告安田火災から搭乗者保険金一〇〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

被告らは、右保険金は、実質的に損害の填補となるから、自賠責保険金等からこれを控除すべきであると主張する。しかしながら、搭乗者保険は、自家用自動車総合保険に組み込まれ、保険料も基本契約と一括して定められているものの、その死亡保険金の額は実際に生じた損害の額とはかかわりなく定額とされている上、その約款上、商法六六二条所定の保険者代位の規定が排除されているのであり、これらの点に照らせば、右死亡保険金は生命保険金とほぼ同じ法的性質を有するものと認められ、原告らが右保険金を受領したからといつて、これによりその受領額の限度で損害賠償額から控除されて原告らの損害賠償債権の消滅をきたすものではないと解すべきである。この点、被告らは保険金の支払いにより不当に又は被つた損害以上に利得する者が生じないようにすべきであると主張し、また、搭乗者保険の保険料の出捐の意味につき保険契約の際の保険契約者の意思を合理的に解釈すれば、搭乗者に対し自己の負担すべき損害賠償に関する保険をも含むものとして契約したものとみるべきであるとの議論があるが、搭乗者保険の保険金は、保険契約者側(加害者側)の損害賠償義務の有無を問わず支払われることから、同保険金をもつて損害賠償の填補としての性質を有するということができず、また、保険契約者は、基本的に自家用自動車保険(損害賠償保険)に加入しているのであつて、損害賠償保険とは性質を異にする傷害保険(約定の保険事故が生じた場合は、実際に生じた損害の額とはかかわりなく約束の保険金が支払われるもの)による損害賠償義務の填補を期待するものとは必ずしも言えないから、被告らの右主張に理由がない。もつとも、被害者が搭乗者保険金を受領することは実質的に被害の救済となること、及び通常はその保険料は加害者側が自家用自動車総合保険の一部として出捐していることから、慰謝料算定に当たつて斟酌すべき事情となり得るというべきである。

ところで、本件について前示搭乗者保険の保険金の支払いを慰謝料算定に当たつてどの程度に斟酌するのが相当かを検討すると、本件の場合は、搭乗者保険金の保険料はミサオの相続人の一人である原告義隆が出捐していることから、被害者側がこれを出捐したと評価することができ、第三者が加害車両に同乗していたところ交通事故が発生し、加害車両の保有者兼保険料支払人が損害賠償義務者となる通常の場合とは異なり、保険料を被害者側で出捐した生命保険金を受領した場合と類似するものである。なるほど、原告義隆以外の原告らは、原告義隆に対し運行供用者責任を追求することができるが、同原告は、自家用自動車保険(任意保険)を利用し得ない場合は、究極的に貢車の負担分を貢茂に求償し得ること(この点が、原告義隆において貢車を運転した場合と異なる。)、ミサオの慰謝料は、貢車の運行供用者に対する関係と大山車の運行供用者に対する関係を区別して認定すべきではないところ、大山車の運行供用者に対する関係では、原告義隆とそれ以外の他の原告について区別して考えるべきでないことから、右法律上の可能性を考慮しても、なお搭乗者保険の保険料を被害者側で支払つたというに妨げはないということができる。したがつて、本件の場合は、搭乗者保険金の受領の事実は、慰謝料算定に当たつて、特段の事情として斟酌しないのが相当である。

四  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みて、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、金二二五万円(原告一人あたり金四五万円)をもつて相当と認める。

第四  結論

そうすると、原告らの本件請求は、被告ら各自に対し、原告三藤隆秀において六四八万九六六八円、その他の原告らにおいて各五〇四万〇一二六円及び原告三藤隆秀の内金六〇三万九六六八円、その他の原告らにつき各内金四五九万〇一二六円のそれぞれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成四年一一月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

なお、原告らは、本件事故の翌日である平成四年六月二四日からの遅延損害金の支払いを求めているが、右損害賠償金の合計額は、自賠法施行令二条一号に定める保険金額の範囲内であつて、原告らの被告らに対する請求が自賠法一六条に基づくもののみが理由あることになるところ、同条に基づく請求は、保険会社が被害者からの履行請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るものと解され(最高裁判所昭和六一年一〇月九日第一小法廷判決・判例時報一二三六号六五頁参照)、本件記録によれば、被告らに対する本件訴状送達の日よりも前に原告らが被告らに右請求をしたことを認めるに足りる証拠はないから、右訴状送達の日の翌日から遅延損害金の支払いを求める限度で認容すべきである。

(裁判官 南 敏文)

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